オットー・ラムケ技術中尉が地球に降り立ったのは、2884年5月のことだった。
「出迎えご苦労……それにしても寒みぃなぁ」
すでに軍で10年以上飯を食っている有名な技術兵を、整備兵たちは敬礼で迎えた。
シュトラール本星からの直行便でやってきたラムケはコートを持っておらず、冬の気配を秘めた地球の風に身体を震わせた。整備兵の一人が作業用のジャンバーを差し出した。着慣れない制服の上にそれを羽織ると、長い旅路で眠っていた技術屋としての自分が戻ってくる気がした。
シュトラール軍が占領するニューキャンベラには傭兵軍の大部隊が接近しつつあった。傭兵軍は地球独立臨時政府の首都であり、シュトラール軍の地球駐屯部隊の総司令部や補給廠、兵器の修理生産工廠が集結するこの街を是が非でも攻略する気であった。
対するシュトラール軍は、第7装甲機動歩兵師団を中心とした4個師団を配置し、徹底抗戦を行う構えを見せていた。この街を失うことは、地球遠征軍の敗北を意味していた。本来ならもっと戦力を増強するべきであったが、他の部隊は世界各地で傭兵軍と交戦中であり、増援として引き抜くことは不可能であった。
傭兵軍は陸戦の様相を一変させてしまった画期的な新兵器「AFS」を大量に配備し、シュトラール軍は完全な劣勢に立たされていた。傭兵軍もこの優位を絶好の機会として、全面的な大攻勢に出たのである。
着任の挨拶もそこそこに、ラムケは自分の仕事場に向かった。仕事場は、ニューキャンベラ市内にある接収した鉄道車輌工場の中にあった。
「お待ちしておりました。中尉」
ラムケに手を差し出し、笑顔を見せたのは若い少尉だった。
「随分若いな。学生士官か?」
「そうです。奨学金を返す代わりに3年間の前線勤務です」
「名前は?」
「ギュンター・クルツリンガーです」
「俺の兄貴と同じ名前だ」
ラムケはニヤリと笑うと、少尉の手を力強く握り締めた。
「現状を聞こう。食堂はどこだ?」
「こちらです」
クルツリンガーに案内され、ラムケは食堂へと向かった。工場の廊下には修理待ちの大小様々な機材が乱雑に置かれ、疲れきった顔の技術者や整備兵が忙しなく歩き回っていた。
「あまり良い状況ではなさそうだな」
「傭兵軍のピーナッツの話は聞きましたか?」
「報告書は読んだよ。装甲服にレーザーガン。まるで『宇宙の戦士』だ」
「何ですか、それは?」
「最近の若いのは、ハインラインも知らんのか?」
ラムケは機材に占領されつつある食堂の片隅に陣取ると、クルツリンガーの差し出したコーヒーを受け取った。一口すすり、嫌な顔をする。
「不味ぃな。まぁ、こんな負け戦の状態じゃぁ仕方ねぇか」
「補給も滞ってますし。中尉が乗ってきたのの前の便は、食料品と一緒に撃墜されました」
「傭兵軍も運が無いな。もう一便後にしておけば、負けずにすんだのにな」
ラムケはフハッと笑った。釣られてクルツリンガーも吹き出す。
クルツリンガーは分厚いファイルをテーブルの上に置いた。
「こいつが、俺が担当する奴の資料か?」
「はい。基礎部分の開発は完了しましたが、まだまだクリアすべき問題点が多々あります」
「俺が呼ばれた理由がそれか」
「現物を見た方が良いと言ったのは中尉だと聞きましたが」
「俺は前線向きなんでな」
ラムケは資料に眼を通しはじめた。クルツリンガーはラムケが一瞬にして集中したのを見て、席を外した。
1時間ほど経ってクルツリンガーが戻ってきた。サンドイッチとコーヒーの載ったトレイを手にしている。
「ちょうど腹が減ったとこだ。気が利くな」
サンドイッチに手を伸ばし、口に放り込む。薄いハムと乾いたレタスは味がしなかった。
「資料を見たが、こいつは怪物だ。完成すれば陸戦史上に残る兵器になるだろう」
「しかし、車体は完成していますが、AIが完成しないことには戦闘に参加することは不可能です」
「ナニ、その辺は俺に任せておけ。それをどうにかするのが俺の仕事だ」
ラムケは自信たっぷりに口元を曲げて見せた。
ラムケは電子工学、それもAIの専門家として軍内部で知られていた。技術研究所に入所が求められるほどの人材であったが、学閥支配が厳しい技研を彼は嫌っていた。
そんなラムケであったが、今度担当することになった陸戦兵器のAIには手を焼かされることになった。軍首脳は、この新兵器に様々な状況に対して独立して対応できることを要求したのである。
すでにAIの基礎部分は完成しており、機体や武装の制御は及第点のレベルに達していた。が、総合的な性能は要求を満たすには十分ではなかった。
「こいつはクレーテとは全く違う兵器だ。その辺を理解しなくちゃならん」
ラムケはクルツリンガーにそう言った。クルツリンガーは、ラムケの助手として各方面との折衝役に就いていた。
「クレーテは偵察機だ。極端な話、偵察情報を送っちまえば機体はぶっ壊されても構わんというわけだ。しかし、こいつは純然たる攻撃兵器だ。生き残って、何度も出撃するのが役目だ」
テーブルの上に拡げられた図面には、奇怪な兵器が描かれていた。変形したラバーダックのようなシルエット。といっても、体はゴムではなく、分厚い装甲で形作られる。アヒルの首は全周囲を射撃できる砲塔だった。
これはシュトラール軍で使われている汎用ホバー輸送車Sph69を基にした、対AFS兵器となることを期待されたホバー戦車だった。現時点ではX-PKH103と呼ばれていた。
「AFSの攻撃は装甲で防げるだろう。AFSの装甲はレーザーで打ち破れるだろう。しかし、それができても『兵士』として動き回れなければただの的だ。こいつは産まれた時点で一流の兵士でなければならないんだ。狐のように狡猾で狼のように獰猛な、だ」
ラムケは携帯端末にいくつかのデータを表示させた。
「いろいろ見てみたんだが……センサー系の評価分析ロジックに大穴がある。こいつはAFSと人間と焚き火の区別がつかない」
「どういった事が原因でしょうか?」
「人間は、眼で見て敵味方の区別をつける。区別はどうしてる?」
「兵士だったら服の色や装備の形、兵器だったら形状や国籍マークです」
「こいつも同じように見分けることができなければならないわけだ。AFSや敵戦車は、IFFで区別がつく。だが、こいつの哀れな脳ミソでは、歩兵の区別がつかない。出撃した直後に、味方の歩兵を料理しちまう。どうしてかというと、人間の探知を赤外線に頼りきってるからだ。夜戦での運用も考えて、車輌の熱源も探知するようになってるのも問題だ。熱源をみたら即時に反応する。今のこいつは蛇みたいなもんだ」
「解決策は何かありますか?」
「少々時間がかかるが、光学系とそれ以外のセンサーの情報を照らし合わせて評価分析するロジックをねじ込むことだな。半月あればどうにかなる」
「傭兵軍が待ってくれますかね?」
「それはわからんよ」
ラムケはクルツリンガーに指示とデータを渡すと、技術者個人個人への伝言も託した。
「無線交信の部分はどうしますか?」
「人語で交信するっていうあれか? そんなものは俺が昔作ったのを流用すればいい」
「そういえば、あの玩具は中尉が作ったそうで」
「昔の話だよ」
「姪っ子のお気に入りですよ、あれは」
「話す猫のぬいぐるみか? 兄貴の会社のヒット商品だな。発売されて15年にもなるのにまだ売れてる」
ラムケは眼鏡を外すとテーブルの上に置いた。
「俺の親父は物を作るのが好きでな。家具から玩具まで何でも作ってた。俺は親父が50過ぎてから出来た子だから、親父が物を作ってる姿しか知らん。小さな模型屋をやっててな、俺はそこで育った」
ラムケは懐かしさに眼を細めた。
「自分で言うのも変だが、変な親父だったよ。来る日も来る日も、模型の戦車や飛行機を作りながら、ドイツって国の軍隊の話ばっかりしててな。800年前の地球での戦争の話だよ。やれティーガーという戦車は強かっただの、バトルオブブリテンだの、東部戦線だの──それで知ったんだが、俺の兄弟の名前はルフトヴァッフェのエースの上位4人の名前からとったそうだ」
クルツリンガーはファイルを閉じ、ラムケの話に興味深げに耳を傾けた。
「お袋や兄貴たちは、親父の話についていけなかったようで、俺だけが親父の話し相手だった。親父は子供には軍人になって欲しいと思っていたようだが、一番上の兄貴は銀行家、二番目は大学教授、すぐ上の兄貴は知っての通りの玩具会社の社長。結局親父の夢を叶えたのは俺だけだった」
「どうして軍に入ったんですか? 学生時代に玩具で特許を取るほどだったと聞きましたが」
「親父が軍人だったんだよ。といっても、それを知ったのは親父が死んだ時……高校を卒業する間際の事だがな」
ラムケはすっかり冷たくなったコーヒーをすすった。
「戦車のエンジンに関しては、右に出る者はないほどの知識と技術の持ち主だったそうだ。ゲオルグ・ラムケ技術大尉。それが模型屋の親父の正体さ。遺品の整理をしてた時に見つけた親父の記録を読んで、俺は入隊することを決めたんだよ」
「そうですか」
「本当は、模型屋の店長になりたかったんだ。でも店は、模型コンテストで入選できなかったことを逆恨みした常連に火をつけられて燃えちまったけどな」
ラムケは笑った。
「入隊した後は知っての通りだよ。海軍の無人哨戒艦のAIを作ったり、今でも使われてる小型無人偵察機を作ったりだ。戦場試験で戦場と研究室を行ったり来たりしてたら、研究より戦場の方が好きになっちまったよ」
「自分はこの戦争がはじめての経験になります」
「気楽に構えてれば良い。無事に大学に帰れるよ」
傭兵軍が守備隊の安眠妨害を狙った砲声が遠雷のように響いた。砲声を伝えてきた空気によって、テーブルの上のコーヒーカップがカタカタと鳴った。クルツリンガーの顔が暗く沈んだ。
「俺が死ななかったんだ。お前も死なんよ」
2884年6月9日。
傭兵軍はニューキャンベラの包囲網を狭め、零時過ぎから猛烈な攻撃を行った。後に戦史に記されることになるニューキャンベラ包囲戦の開始である。
守備部隊はニューキャンベラ前面の丘陵地帯に進撃、傭兵軍の前進を食い止めようとした。しかし、AFS連隊を先陣とした傭兵軍の猛攻に耐え切れず、次々に壊走してしまった。
翌10日もシュトラール軍は退却を続けた。部隊は各個撃破され、ニューキャンベラには車輌や装備を捨てた兵士だけが次々とたどり着くという有様だった。第7装甲機動歩兵師団は何とか前線に踏み止まったが、11日には傭兵軍の虎の子部隊、第14装甲猟兵連隊のAFS部隊の前に敗れ去った。
シュトラール軍総司令部は、補給や事務といった非戦闘部署の将兵をかき集め、かろうじて戦意を持っている敗残部隊の兵士を補助につけた臨時歩兵部隊を編成し、最終防衛ラインを形成させた。しかし、これらの部隊が傭兵軍を食い止められるとは誰も思っていなかった。
12日未明。傭兵軍はすぐそこまで近づいていた。
「各機関の調整、完了しました」
ここ一週間まともに寝ていないクルツリンガー少尉が、幾分ハイになった声で言った。ラムケは重い防弾ヘルメットを被りながら片手を挙げて応えた。
「そこでビールでも飲みながら見物してろ。傭兵軍に一泡吹かせてやる」
ラムケが向かう先には、暖機運転が終わったPK40が待機していた。ラムケが到着すると整備兵がシートを譲り、腰掛けたラムケをハーネスで固定する。
「幸運を!」
「その願いは、俺じゃなくて傭兵軍の奴らに言ってやれ! これからタコ踊りをさせてやる」
親指を挙げ、キャノピを閉じる。スロットルを押し込み、操縦桿を引く。PK40は軽々と空へ舞い上がった。
『ピーナッツの群れを捕捉した。南東方向、距離4000。丘の上だ』
『了解。“牛”を野に放て』
『“牛”を出撃させる』
警報が鳴った。重い機関音が高鳴る。整備兵たちが一斉に待避所に走り込む。嵐のような猛烈な風が、砂を舞い上げた。
『“牛”が行くぞ。各員注意しろ』
『ゲート要員はゲート開放後ただちに退避』
『近づくな! 吹き飛ばされるぞ!』
それは開け放たれた工場の扉の向こうから姿を現した。猛り狂った雄牛を思わせる排気音を響かせ、錆止め塗装も施されていない黒くくすんだ装甲板にサイレンの赤い光を反射させながら、滑るように整備兵の前を通過していった。
「季節外れの牛追い祭の始まりだ!」
誰かが叫んだ。
全長10mを超える巨体の17匹の鋼鉄の雄牛は、畑の中に布かれた最終防衛ライン上の歩兵部隊の脇を抜けると、一斉に砲塔に搭載されたサーチライトに点灯した。それと同時にロケット砲兵隊が前進を援護するための砲撃を開始した。
丘が爆炎に包まれるのを、ラムケは上空から見ていた。コンソールの戦術ディスプレイには、17輌のX-PKH103の動きが表示されている。挙動に問題がある機体は無い。上々の滑り出しである。
ロケット砲の砲撃を壕に引っ込んで回避したAFSの群れが顔を出すのが見えた。X-PKH103は、ロケット砲の爆煙を隠れ蓑にしてレーザーの射程内に潜り込んでいる。
ラムケは攻撃開始の指示を出した。X-PKH103のAIはまだ戦術的判断ができなかった。
AFSがレーザーを発射した。灼かれた埃が赤い射線を描く。先頭を走るX-PKH103が被弾。しかし、AFSのレーザーに耐えることを目的に作られた特殊耐熱セラミック装甲とその下にある100mm厚のタングステン複合装甲は、その一撃を完全に防いだ。他の車輌にも命中弾があったが、致命的な打撃を受けたものは皆無だった。
『射撃開始』
X-PKHが短い通信を送ってきた。その直後、各車輌が2門ずつ搭載する大出力のレーザー砲の火蓋を切った。
「すげぇ」
レーザーの直撃を受けたAFSが倒れた。倒れたままピクリとも動かないのを見て、乗員は圧倒的なレーザーの熱量によって焼き殺されたというのが分かった。次々とAFSが撃ち倒されていく。ラムケは喜びと同時に、自分が生み出したモノの凄まじいまでの破壊力に怖気を感じていた。
X-PKH103の群れは、最初の塹壕線を軽々と乗り越えると、浮き足立ったAFSを追い回しはじめた。そこにPK40の攻撃が加わると、それまで無敵を誇っていたAFS部隊はただの羊の群れに成り下がった。
上空のラムケには眼下の光景を見て喜んでいる暇は無かった。AFSの射撃や、走行時の振動などによって、AIに変調を来たした車輌が出始めたのである。ラムケはそれぞれの車輌に指示を出したり、遠隔操作したり、後方で補佐の為に待機している班に指示を出すなどてんてこ舞いとなった。操縦がおろそかになり、背面飛行をしてしまったりもした。
X-PKH103は前進を続けた。歩兵部隊が追従しないため、塹壕内の敵を掃討することはできなかったが、そんな事を気にすることもないほどの勝ち戦であった。
「ん?」
緩い旋回をしながら下を見たラムケは、1機のAFSがX-PKH103の後ろから駆け寄るのを発見した。
「12号機、後ろに敵だ!」
ラムケは叫んだ。音声認識システムがAIにまだ組み込まれていないのに気づいたのは、AFSがX-PKHの背中によじ登った後だった。
砲塔が旋回し、砲塔側面に装備された可動式レーザーの射界にAFSを収めようとするが、AFSの射撃でレーザー砲そのものが破壊された。さらに砲塔が旋回し、前面に装備された固定式レーザーを向けようとしたが、それも破壊されてしまった。
「何するつもりだ?」
AFSは砲塔によじ登ると、砲塔上部に取り付けられていた小型のハッチをこじ開けた。それはAIを収めたシステムを出し入れするためのものであったが、AFSのパイロットは乗員が出入りするためのハッチだと思ったのだろう。中を覗き込んだAFSは一瞬たじろいだようだったが、レーザーを中に向けると発砲した。
AIを破壊された12号車が急停止すると、AFSは飛び降りた。ラムケは機体を傾け、そのAFSを追った。秘密を知られるわけにはいかなかった。
しかし、AFSは爆煙とX-PKHが巻き上げる砂煙の中に消えてしまった。
「くそったれ! 魔女の婆さんに呪われろ!」
ラムケはすぐに各車輌に指示を出し、同様の攻撃に注意し、相互に援護するように命じた。その後、何機かのAFSが接近を図ったが、すべて撃退することができた。
『ピーナッツの後退を確認』
ラムケは戦術ディスプレイを見た。生き残った16輌のうち、半数以上のAIが過負荷によって変調を来たしていた。これ以上の戦いは不可能であった。
「牛追いより牧場主へ。牛はこれ以上の前進はできない。牧場に引き帰させてくれ」
『牧場主、了解』
「帰るぞ」
X-PKHの群れは反転すると味方の戦線に向かって後退していった。
撃破された車輌の空中からの破壊が試みられたが、AFSでも破壊することができない車輌をPK40の機銃で破壊できるはずもなく、しばらく放置されることになった。撃破車輌は傭兵軍によって1時間ほど検分されていたようだったが、敗走するAFS部隊を追う戦車隊が丘に到着すると、傭兵軍は捕獲を諦めて逃げ去った。
『こちらブラウ1。丘の上に敵影無し。30個ばかりのピーナッツの殻を確認した。大戦果だ。牛どもは、まるで胡桃割り器のようだな』
『ブラウ1、報告は簡潔にしろ……胡桃割り器だと?』
偵察機と司令部との会話を聞きながらラムケは撃破されたX-PKH103の回収作業にあたっていた。重さ100トンの戦車は、それこそ満腹になった牛のごとく座り込んでいた。自走させるための様々な試みが失敗に終わったあと、ケーブルでつながれた3輌のSph69が引っ張る形で強引に工場へと引き戻された。
第14装甲猟兵連隊に多大な損害を与えた謎の戦車の噂は、後退する傭兵軍の間にあっという間に広まった。噂には当然のことながら尾鰭が付き、数百輌もの謎の戦車が追撃しているという内容にまで発展した。後退は恐慌を伴った壊走へと変わり、ニューキャンベラ包囲戦は終りを告げた。
数日後。パイロットスーツの洗濯をしていたラムケは、司令部から帰ってきたクルツリンガーに声をかけられた。
「中尉、聞きましたか?」
「何の話だ?」
「X-PKH103の制式採用が決定されたそうです。制式名称はPKH103──ナッツロッカーです」
「胡桃割り器だと?」
「ブラウ1の報告が司令部では大ウケだったようです」
「……まぁ、牛よりかはマシだな」
「また座り込まれたら迷惑ですからね」
「まったくだ」
ラムケとクルツリンガーの二人は、笑いながら工場へと向かった。
彼らを16輌のナッツロッカーが迎えた。